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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)1030号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩切清治の上告理由第一点について。

被上告人らが本件土地につきその主張のような約定の賃借権を有していた旨の原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の認定判断は、その挙示する証拠関係および説示に徴し、首肯することができ、原判決には所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

同2について。

所論は、原審において主張しなかつた事項に基づき原判決の違法をいうものであつて、論旨は採用することができない。

同第二点について。

賃借権の設定された土地の上の建物についてなされた登記が、錯誤または遺漏により、建物所在地番の表示において実際と多少相違していても、建物の種類、構造、床面積等の記載とあいまち、その登記の表示全体において、当該建物の同一性を認識できる程度の軽微な誤りであり、ことにたやすく更正登記ができるような場合には、建物保護に関する法律第一条第一項にいう「登記シタル建物ヲ有スル」場合にあたるものということができ当該賃借権は対抗力を有するものと解するのが、当裁判所の判例である(最高裁判所昭和三六年(オ)第一一〇四号同四〇年三月一七日大法廷判決、民集一九巻二号四五三頁)。これと同趣旨の原判決の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官松田二郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官松田二郎の意見は、つぎのとおりである。

本判決の結論には異論はないが、多数意見が上告理由第二点について述べているところには賛成することができない。

すなわち、原判決の確定するところによれば、本件土地は鹿児島市郡元町二、七一三番であるところ、かつて、登記簿上の本件(一)、(二)の建物の所在欄には、同所二、七一〇番地と表示されていたのであるが、昭和四二年七月二六日に本件(一)の建物については同所二、七一三番地に、本件(二)の建物については同所二、七一〇番地、二、七一三番地にいずれも錯誤を原因として更正登記がされているというのである。かかる場合には、この更正登記によつて、登記簿上、建物所在地番の表示が賃借地の地番と一致するに至つたのであるから、結局、建物保護法所定の要件を充たし、被上告人らにおいて右賃借権をもつて上告人に対抗しうることになつたと解すべきである。その理由は、当裁判所昭和三六年(オ)第一一〇四号同四〇年三月一七日大法廷判決、民集一九巻二号四五三頁における私の反対意見と同一であるから、それをここに引用する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

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